ベラとルドウィック #幻杯

文芸

天を衝く摩天楼が燃えている。

 

「ああ、僕たちはなんてことを。故郷に火を放つなんて」

「仕方ないんだよ、やってしまったことは。もう何もかもおしまいだ」

ホームの屋根の上、ルドウィックは遥か彼方の光景から目を背けている。投げやりな口調で笑ってみせるが、深く被ったフードの奥に涙が見えた。

「誰ひとり救えなかった」

業火をひとしきり眺めたベラも、力なく呟く。

 

平穏だった街はあまりに唐突に、魔獣の脅威に曝された。

魔獣に侵された者はゾンビのように理性を喪失し、自らも魔獣と化して更に街の人間を襲った。荒廃した街にはすでに市民の安息はなく、生き延びた人間は人智と手数の限りをもって高楼を築き上げた。慣れ親しんだ街を捨て、残された市民が同じビルの中で声を潜めて不安な日々を過ごした。

結界を張られたその高楼も、やがて攻め込まれることになる。

ベラの育ての父も、ルドウィックの母も、ベラとルドウィックを残して魔獣に引き裂かれた。

「魔獣になった母さんたちの目を見て、もう駄目だと確信した。人間の魂をまるで宿しちゃいなかった」

いくら叫んでも、訴えても、人間であったことを忘れた家族の胸には響かなかった。

 

「魔法学校で学んできたことの成果が、これなのか? 愛する家族や故郷を焼き払うために、僕たちは魔法を習得したっていうのか」

ベラは怒りも悲しみも含んだ低い声で唸るように独りごちた。ルドウィックはその言葉を拾い上げ、「そうだよ。全部こうなる運命だったんだ」と吐き捨てた。

 

「どうするの、これから」

「列車でどこか遠くに行こう。この街を思い出さなくて済むくらい、遠くの街に」

ベラとルドウィックのいずれにも、魔獣を討った達成感などなかった。あるのはただ、強い喪失感と寂寥。煙焔はさらに高く、曇り空を覆わんとしている。

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